HOTEL

ヴェニスの怪しげな古いホテルに映画の撮影隊が泊まっていて、
「ドグマ」の参加作品として「マルフィ公爵夫人」を撮っている。
怪しいホテルスタッフの怪しい行動、撮影隊の人間各々に起こる様々な出来事、
それを、即興で、俳優各自自前の衣装とメイクで、
一日撮り終えるごとにみんなでディスカッションをしてOKテイクを決め、
そしてマイク・フィッギスが前作「タイムコード」で挑戦した
4分割マルチ画面を多用して撮影されている。
劇中劇に「マルフィ公爵夫人」を選んだことをはじめ、
種々のメタファや思考実験的なことが散りばめられているのであろう、
と推測するものの、実際はなーんにもわからなかったわたしではあるが、
いろいろ刺激的なことが起こってはいるのだけれど、
起こりっぱなし、投げっぱなしになっていることはわかったし、
ミステリアスなムードも、ムードに過ぎないように感じられた。
この映画は多分、こういう手法で撮ることが全てなのだ。
撮影現場はさぞかし楽しく充実していたであろうと思われる。
そういう実験的な映画にしては退屈せずに最後まで観られるし、
実験的であることそのものを否定しようとは思わないけれども、
やっぱりわたしはそういうものよりも、もっと切実に
大声で何かを叫んだり、呪詛を囁いているような映画を観たいと思っている。
唯一キアラ・マストロヤンニの妖しさだけはこの映画で際立っていた。